※今回は旧ブログの記事をこちらに移動してみました。書いたのは6年前なので内容はやや古くなっており状況も変わりつつあるのですが、いまだにアクセスがあり皆さん気になるトピックなのだなということで、ここに復活。お楽しみいただければ幸いです〜!
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イギリス生活もすでに10以上年が経過。そして生活していていまだに感心するのはつくづく階級社会だなあ、ということ。格差社会であることももちろんだけど、そのまえになによりも階級社会だ。
今さらもしれないが、ざっくり分類するとアッパー(上流階級)/ミドル(中流階級)/ワーキング(労働階級)の三種類。その下は「階級以下」とでも訳せばいいのかアンダークラスという貧困階級。
階級というと、どうしても「上か下か」もしくは「金持ちか貧乏か」というテーマに終始してしまいがちだけど、実際にはどの「部族」に属するかと捉えた方が近い気がする。
例えば英語の発音や話し方のトーン、職業に出身校、「夕飯」を何と表現するかといったボキャブラリー、体型や顔つき…観察してると何から何まで違う。そしてミドルクラスをひとつとっても「ロウワー・ミドル」「ミドル・ミドル」「アッパー・ミドル」と細かく分かれていて、その生活ぶりの差はとても「ミドル」というカテゴリーでは括れないぐらいの開きがある。
ちなみに「ミドル」という呼び方からイコール「日本の中流家庭/もしくは庶民」と考えてしまいがちだけど、イギリスでいうミドルは、少なくともミドル・ミドル以上は「裕福な人たち」であることも付け加えておく。また統計によるとイギリス人の6割が自分を労働者階級出身であると考えているらしい。
大抵の人は同じ階級の人たちとしか交流しないからあまり強く意識していないけれど、イギリス人のアタマには「階級」という言葉が刷り込まれていて、切っても切り離せない概念のよう。
ただ、イギリス人全般に通じるテーマといっても、人によっては競争心や虚栄心、劣等感といった感情やエゴを刺激したり、誤解をまねきやすいこともあって、あえて話題にするのはなかなかビミョーなトピックだよなとも思う。純粋に彼らの生態を観察している分にはかなり面白いのだけど。
そんなわけで、以前からこのブログで自分がきっとひそかに抱えてるスノビズムや劣等感をいったん脇においた上で階級について少し触れてみたいなと思っていた。
身近なところでいうと、自分がふだん縁があるのはいわゆるワーキング〜ミドルクラスあたり。面白いことに意外にも生活が派手なのはアッパー・ミドルではなくてミドル・ミドルクラスの人たちで、水準以上の生活をしているのに「お金がいくらあっても足りない」とぼやいている人も多い。上昇志向や見栄みたいなものが働いているせいなのか。アッパー・ミドルの人の方が質実剛健というか、けっこう質素に暮らしてるし子どもも甘やかさない。でも実は親子代々名門ボーディングスクール(全寮制私立学校)の出身で、先代から受け継いだ別荘を海外にもっていたりする。まあ、私個人の経験から言っているだけなので、どれほど全体に当てはまるのかかは分からないけれど。
ちなみに昔ヒットした映画『ブリジット・ジョーンズの日記』の主人公ブリジットはミドル・ミドルクラス出身という設定で、彼女とからんでくる弁護士のダーシーとセクシー上司のダニエルはアッパー・ミドルの設定だった。そしてブリジットの母親は自分たちをワンランク上のアッパー・ミドルに見せようといつも見栄を張っており、父親は妻のそんな振る舞いに呆れつつも彼女を深く愛している。ベタながら王道ラブストーリーの背景にある、微妙な階級間のズレがコミカルで面白かった。これはこの映画(とその原作)の原点にあたるJ・オースティンの『高慢と偏見』にも通じるテーマだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなんかも同様の視点でみていみるとまた面白い。こちらは階級よりもイギリスの地方色も入ってくる感じで、たとえばイギリス人にとって、ホビット族はイングランド西部の古き良き人たちを思い起こさせるのらしい。そしてフロドはほかのホビットたちより階級が上(いわゆるジェントルマン階級)。ドワーフは出来の悪いウェールズ人。この映画で話されている英語はイギリス英語ではなくて「ファンタジー映画用のハリウッド英語(そういうのがあるんです)」なのだけれど、登場人物たちのアクセントは確かに全然違っている。
そんな役にも立たないことをつらつら思いながら暮らしているうちに、昨年の前半、国営放送BBCと社会学者チームによって実施された英国の最新の階級調査「The Great British Survey」の結果が発表された(註:執筆当時2014年の話です)。これまでのアッパークラス/ミドルクラス/ワーキングクラスという典型的な分け方をいったん排して、7つの独特なカテゴリーに分類。それぞれのグループについての詳しい説明については省くけれど、16万人以上を対象に「経済状態・文化志向・交友関係」の面からアプローチし、それぞれのカテゴリーを割り出したのだという。これについては「現実にそぐわない」と各方面からかなり反論もあるのだけれど。
7つのカテゴリーの名称をあげておくと、上の方(=リッチな方)から「エリート」「エスタブリッシュド・ミドルクラス」「テクニカル・ミドルクラス」「ニュー・アフルエント・ワーカーズ」「トラディショナル・ワーキングクラス」「イマージェント・サービス・ワーカーズ」「プレカリアート」。
7つのタイプをイラストにするとこんな感じ。(BBCのサイトより拝借しています)
BBCのサイトに自分がどのグループに属しているのかを診断するテストがあったので試してみた結果、うちは「テクニカル・ミドルクラス」。
非常にパーセンテージの低いグループで、しかも経済状態の面ではかなり裕福なグループなので「なんか全然違うよな〜」と思ったのだけど、夫婦ともに大卒、そしてややオタクな文化嗜好&交友関係、そしてロンドンは住宅価格がかなり高いので、全国平均よりは高価格帯の住宅(実際には小さなフラットだけど)に住んでいるという点でのこのカテゴリー入りなのかもしれない。自分の感覚では「ニュー・アフルエント・ワーカーズ」か「イマージェント・サービス・ワーカーズ」あたりではないかなと思ったのだけれど。まあグループ分けなんてもともとかなり大雑把なものだから仕方ない。しかも外国人だし。
イギリスの方が大学進学率が低いとかいろいろお国事情が違うので、この分類法をそのまま日本に持ってくるのは無理だし、比較もしにくいだろうと思う。
さてグループ分けはここらへんにしておいて、階級でもう1つ面白いことについて触れておきたい。その階級独特の「趣味=テイスト」だ。
話し方や職業、体型などが違うと先ほど述べたけれど、どの新聞やテレビ局を好むか、娯楽や休暇に何をするか、子どもやペットの名前、ファッションあたりにも大きく差が出てくる。
ここら辺はお金のあるなしとはちがって、あくまでも好み。同じお金があっても選ぶスタイルが違ってくる訳だ。もちろん多様化が進み、例外も多くあるわけだけれど。
この階級別テイストについて、現代美術賞ターナー賞作家&フリフリドレスの女装姿で知られるちょっとヘンなアーティスト、グレイソン・ペリーが面白いドキュメンタリーをやっていたので、次回はその話を。